星にゃーんのブログ

ほとんど無害。

夢と勇気と変身ベルト

一番古い記憶は、変身ベルトのCMだ。

物心ついたときから憧れだった。仮面ライダーそのものより、変身ベルトが好きだった。 ファイズギアとブレイバックルを買ってもらった。四六時中巻いていた。 夢中で仕組みを調べていた。カードのバーコードを目で読もうとしていた。 でも、もう捨ててしまった。

夢が無かった。なりたいものも、叶えたいことも無かった。 それで良かった。無くて構わないと知っていた。 夢が無くとも、誰かの夢の妨げにはならない。 どこかの誰かが代わりに夢を抱くなら、それだけで十分だった。

勇気が無かった。これはちょっとまずかった。 しかし良かった。悪いことをするよりは、何も為さないほうがずっとマシだ。 勇気が無くても、誰かの勇気を咎めることはしない。 これを読んでいるあなたが勇気を振り絞るなら、それで報われるはずだった。

変身ベルトは捨ててしまった。もう必要のないものだから。 これで良かった。幻想の時間は終わり、確かな地面が僕の礎となった。 ベルトがあっても、誰かを殺すのが関の山だ。 あれは夢と勇気を抱く幼子の、思いを叫んで輝くのだろう。

いつか思い出すと分かっていた。 亡くしたものが蘇るとき、僕の命は始まるのだろう。 ずっと先だと思っていた。すべてが止まった、その後だと。

ところがどうだろう。辺りを照らすのは夢の灯りだ。 身体を動かす勇気の炎が、再び燃える音がした。

一度止まった心臓が、過去の記憶に目を覚ます。

夢と勇気と変身ベルト。