星にゃーんのブログ

ほとんど無害。

ヘビ兄ちゃん

 我が家では時々、「怪人たる資格」の話が始まる。

 仮面ライダーの登場人物には、怪人かどうか判断が難しいキャラクターがいる。仮面ライダー1号は、ショッカーによって生み出された改造人間だ。

 もっと直接的に、怪人への変身能力を持つ者もいる。例えばオーズの火野英司のように。この話はいつも、同じところに着地する。「ヘビ兄ちゃんは怪人なのか、仮面ライダーなのか」

 ヘビ兄ちゃんとは、仮面ライダーファイズに登場するキャラクター、海堂直也のことだ。我が家では彼をそう呼ぶ。ヘビ兄ちゃんは露悪的な性格で、大仰な身振りと陽気な態度の、単純だが底の見えない男だ。そして、蛇の力を持つ怪人スネークオルフェノクへの変身能力を持つ。つまり、彼は怪人だ。

 オルフェノクは人間ではない。死から甦り、人間を超える種として生まれ変わった生命だ。繁殖のための本能を抱えている。人間を殺せという心の叫びを。

この意味で、ヘビ兄ちゃんは特殊だった。人を殺そうという気をおくびにも出さなかった。

 ヘビ兄ちゃんはギターを弾いて、いた。しかし、今の彼には指先の感覚がない。昔のように音楽を奏でることはできない。音楽の夢は彼の中で呪いとなった。奏でられることのない音楽が彼の心を掻き乱している。

 この呪いと化した夢の残骸が、「殺せ」と叫ぶ声を掻き消している。ヘビ兄ちゃんは夢を絶たれ、呪いを背負い、生きている。彼は怪人なんだろうか。

 夢に生きる人に、怪人たる資格はあるんだろうか。


初出はこのツイートです。